本書は、日本統治下の台湾生まれで、米国籍の歴史家が日本語で書いた米国通史である。その独特の視座ゆえに予測される複雑なねじれは克服され、客
観的な記述で貫かれている。例えば、オバマ政権が対応を迫られる大不況の場合、本書のニューディール政策関連の記述はその客観性ゆえに大いに参考になる。
しかしながら、アメリカ人または日本人が書いた米国通史より微妙な点で特異性が出る。例えば、日本がアジアで真っ先に民主主義が根づいた背景を、一党独裁
の中国本土と近年民主化した著者の母国・台湾、著者の選んだ国・アメリカ、この三角形から眺めてしまうのだ。この三角形は、著者にとっては常に緊張をはら
んでいるのだが、いわば三角形の中心に日本が位置し、「異文化圏で民主主義が成功した第一例」として著者が特別な視線を注いでいるのだ。
福沢諭吉の「天は人の上に」云々(しかじか)というアメリカ独立宣言の和風解釈に加えて、『御成敗式目』(1232)の法の道理性がそれに�堨�ちされてい
るという見方がその一例だろう。そしてザビエルが、この「どうり」とヨーロッパの理性との共通性を感じ取って日本布教の成功を確信した逸話から、一転、
ブッシュ前大統領が小泉元首相との親交を土台に「おたがいが民主主義国家だから『昨日の敵が今日の友』になったと説いた」事実へと連結されるのである。
だから、この膨大な通史は、右の「三角形プラス日本」の視座でアメリカを見つめ直した点が最大の特徴だ。そのためには、コロンビア大で学位取得後、生涯勤
め上げたペンシルヴェニア州中央部のルイスバーグにあるバックネル大学で日本関連の講座を持ち、他方、同地方の選挙区から二度も連邦下院選挙に出馬、挫折
したものの、アメリカ選挙民の脈動を十二分に捉(とら)えた。この著者のユニークな視座が、アメリカの世界における位置を解き明かしてくれる。
David John Lu (盧焜熙),
1928年生まれ。米バックネル(Bucknell)大名誉教授。同大日本研究所長などを経て現職。著書に『太平洋戦争への道程』など。