小説 『アルト一ロの贈り物』


David Lu (盧焜熙)著 小說 『アスト一ロの贈り物 80こして初めて会う我が子との心の旅』2017年3月 eブックランド社 319頁 。eブックランド を検索し、その下にある登竜門をクリックすれば、ダウンロードが出きます.日本アマゾンから print on demandの形で発売されています。  

梗概 :エドガー・アラン・ポーの研究で著名な学習院大学教授武田武彦は利家公の血を引く前田幸子を妻とし、二人の男の父親。よそ目には幸福に見えるが、苦悶の毎日を過ごしていた。アメリカ留学中、金髪の美人アンドレアと一夜の歓びをむすび、その胎児をおろさせたという秘密は誰にも明かすことが出来ない。夢を見ればレーバンが窓を叩き彼を詰る。それが祟って鬱病にかかり、自殺を真剣に考えるようになった。幸子は幸子で、自分のどこが足りないのか、と疑問を持ち、愛情に満ちた家庭生活は昔のものになってしまった。  
二人が最初に言葉を交わしたのが東大赤門近くのコーヒーショップ。幸子がホーソンの『緋文字』を読んでいて、それが二人の話題になった。武彦は家族を生まれ故郷の台湾旅行に誘い、その場で幸子に『緋文字』を一緒に研究しようと勧める。『緋文字』の主人公に自分の姿を見出し、その主人公が姦淫を犯して、死の直前まで告白できなかったことを考えると、武彦はまたもや自殺に解決を求めようとした。  
1972年の夏、田中角栄内閣が日中関係正常化を求めて台湾と断交する寸前、武彦は親台湾派議員の密使として台湾に行き、台湾独立を求めるグループが蒋介石総統を軟禁する事件に遭遇する。その経験を通じてホーソンの『緋文字』は南北戦争前のアメリカ社会を風刺した小説ではなかろうか、という観点から研究を進めたら、辻褄が合った。文学は社会の木鐸という武彦の文学論がそこで生まれた。『緋文字』の倫理は武彦夫婦にキリスト教的思考法を与え、ルターの『キリスト者の自由』に導いていく。しかし武彦は仏門に帰依しようと考えたこともあり、二人は大和の古寺巡礼を続けた。 80を越したある日、堕胎された筈のアルトーロが武彦の目の前に現れる。しかし本人は素性を明かさない。この物語は数年後、武彦がアルトーロに「私は君の実父だ」という形で書いた告白の手紙と日記で始まり、それと対照しながらアルトーロが亡き母の日記を引き出す形で進められ、アメリカ、カナダ、東アジア、ヨーロッパを舞台に展開する。 さてアルトーロの贈り物とはなんでしょうか、お楽しみにお読み下さい。
David Lu ( 盧焜熙 ) 1928年台湾に生まれ、台北高校尋常科、高等科を経て、戦後は中国政府下の台湾大学に編入された。1950年アメリカ留学 Westminster 神学院を経て、Columbia 大学から1960年に政治学博士を授与される。同年アメリカ市民権取得、2度下院議員選に出馬した経験を持つ。現職は米Backnell大学歴史学並びに日本学名誉教授。
和文(日文)での著書に『アメリカ自由と変革の軌跡:建国からオバマ大統領誕生まで』(日経出版社、2009年)『松岡洋右とその時代』(長谷川進一訳、TBSブリタニカ、1981年)、『パイオニアの築いた偉大な社会:アメリカ史話』(善本社、1976)、『太平洋戦争への道程』(田島周子訳、原書房、1967)などがあり、その他、英文での日本紹介の著書が多数ある。
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小說の主人公武田武彦は二次大戦中台北高校尋常科在学、台湾から引き揚げ、四高、東大を経てアメリカ留学となっているが、戦中、戦後の台湾や日本の情景が浮き彫りになって、懐かしく読めた。弟は武彦の生涯を通して、戦後の日本人が経験した苦難と歓びを描写しようとしている。ホーソーンや旧約の預言者の言葉を使って日本やアメリカの現状を風刺し、彼なりの批判を加えているのが面白い。救いは何処という人の心の旅だ。万葉集が好きだった弟はポーのレーバンを万葉調の長歌に訳して武彦の作品として載せている。